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アトピー性皮膚炎

特徴について

アトピー性皮膚炎の患者さんは皮膚のバリア機能が低下しており、さまざまな刺激に皮膚が反応して炎症が生じやすくなります。皮疹の広がり方は小児と成人では異なるという特徴があります。皮膚から水分が失われやすくなるために、乾燥肌の患者さんが多いこともアトピー性皮膚炎の特徴です。

アトピー性皮膚炎かな? と考えられる患者さんが受診したときに、医師は次の各項目を思い浮かべて診察します。

アトピー性皮膚炎の定義 アトピー性皮膚炎は、皮膚症状が悪くなったり改善したりをくり返し、強いかゆみのある湿疹が認められ、そして「アトピー素因」をもちます。
アトピー素因 ①家族にぜん息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎にかかったことがあるか患者さん自身がいずれか、あるいは複数にかかったことがある。もしくは ② IgE抗体ができやすいことをいいます。
アトピー性皮膚炎の診断基準

①強いかゆみがあること。

②アトピー性皮膚炎に特徴的な皮疹(湿疹)が認められ、また「体の左右の同じような場所」に湿疹があらわれます。湿疹は、おでこ、目や口や耳の周り、首、手や足の関節のやわらかい部分にあらわれることが多く、皮膚症状が改善したり悪化したりをくり返すことが特徴です。

年齢的な特徴

・乳児期:頭や顔に始まり、次第に体や手足に降りていく傾向があります。

・幼小児期:首や手足の関節に皮疹ができやすい傾向があります。

・思春期・成人期:上半身(頭、首、胸、背中)の皮疹が強い傾向があります。

症状について

アトピー性皮膚炎は皮膚が赤くなってブツブツができたり、カサカサと乾燥して皮膚がむけたり、かさぶたができる場合があります。強いかゆみを伴う皮疹が生じて、バリア機能が低下して普通なら感じないような刺激でかゆみが強くなって掻いてしまい、さらに皮疹を悪化させるという悪循環をたどることが多くなります。

皮疹があらわれやすい部位
皮疹があらわれやすい部位

重症度について

アトピー性皮膚炎の重症度は皮疹の面積と炎症の強さで分類されます。

  • 軽症:面積にかかわらず皮膚に軽度の赤みや乾燥だけが認められる状態です。
  • 中等症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積のおよそ10%未満に認められる状態です。
  • 重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積のおよそ10%以上で30%未満に認められる状態です。
  • 最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上に及ぶ状態です。皮疹は面積より個々の皮疹の重症度が重要視されます。
『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2015』より
『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2015』より

治療について

アトピー性皮膚炎は、適切な治療により症状がコントロールされた状態が長く維持されると、症状がなくなる「寛解(かんかい)」が期待できる病気です。ただし、患者さんの生活環境や生活習慣などによっては再び症状があらわれることがあるために「治った」とはなかなかいえません。アトピー性皮膚炎を長期間にわたって調べたデータによると、年齢とともにある程度の割合で寛解することや、症状が軽い患者さんほど寛解する割合が高いこともわかっています。

治療は「症状がないかあっても軽く、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達して維持すること」、「軽い症状は続くけれども急激に悪化することはまれで、悪化しても症状が持続しないこと」を目標として進められます。
治療内容は「薬物療法」、「皮膚の生理学的異常に対する外用療法やスキンケア」、「悪化因子の検索と対策」を三本柱として進めていきます。炎症に対しては、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を個々に、あるいは組み合わせて用いて、これに保湿薬などのスキンケアを継続します。治療により皮膚が一見きれいになっても皮膚の深い層に炎症が残る場合もあるので、治療を途中で止めてはいけません。

(1)薬物療法:アトピー性皮膚炎の炎症と薬
かつてステロイド外用薬やタクロリムス外用薬が“怖い薬”だと誤解された時代がありました。いまでも不安を感じる患者さんがいますが、十分な有効性と安全性が科学的に検証されていますので、医師の指示にしたがって安心して使ってください。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の外用薬がありますが、抗炎症効果がきわめて弱いうえ、接触皮膚炎を生じることがあるため、アトピー性皮膚炎にはあまり使われません。
アトピー性皮膚炎の炎症は速やかに、確実にしずめることが重要で、そのためにステロイド外用薬とタクロリムス外用薬を組み合わせて治療を進めていきます。

1)ステロイド外用薬
・種類:ステロイド外用薬は薬の中で最も効果的に炎症を抑えます。炎症を抑える強さによって、①ストロンゲスト、②ベリーストロング、③ストロング、④ミディアム、⑤ウィークと、強い順に①から⑤まで5つのランクに分類されています。剤形は、外用薬、クリーム、ローション、テープがあります。髪の毛のある頭部にはローションが塗りやすく、外用薬のべとべと感が嫌いな人にはクリームが使われることがあります。ローションを顔や体に塗っても構いません。テープ剤はひび割れや皮膚表面が固くなった部位に使われることがあります。
・塗り方:ステロイド外用薬は「塗る量」がとても大切です。人差し指(第2指)の先端から第1関節部まで口径5mmの外用薬チューブから押し出された量(約0.5g)が成人の手掌(てのひら)2枚分で成人の体表面積の2%に対する適量です(イラスト)。たとえば、子どもに成人の手掌で5個分の皮膚症状があれば、1日に1回塗るとして4日間で5gチューブを1本使用します。塗り始めて3~4日で赤みやかゆみが治まりますが、赤みが取れても指でつまんで硬いところはやわらかくなるまで(医師の指示にしたがって)10日から2週間くらい、さらに塗ります。

薬物療法:アトピー性皮膚炎の炎症と薬
口径5㎜のチューブから出されたステロイド外用薬0.5gを、てのひら2枚分の面積に塗ります

・副作用:ステロイド外用薬を医師の指示にしたがって適切に使用すれば、内服薬で生じることがある副腎不全、糖尿病、成長障害などの全身的な副作用はありません。局所的な副作用としてはステロイド紅斑(こうはん)や皮膚萎縮(いしゅく)などが生じることはありますが薬の中止や適切な処置により回復します。アトピー性皮膚炎で認められる色素沈着は炎症がおさまったことで生じるもので、ステロイド外用薬の副作用ではありません。

2)タクロリムス外用薬
身体の免疫反応が高まっている状態を正常に整えることで皮膚の炎症を抑えます。炎症を抑えるメカニズムがステロイドと異なるので、ステロイド外用薬で治療が困難な場合にも有効です。ステロイド外用薬の長期間の連用で報告されている皮膚萎縮や毛細血管の拡張がタクロリムス外用薬ではありません。塗ると、かゆみやヒリヒリするなどの刺激が生じますが、皮膚の状態がよくなると次第におさまります。皮膚がジュクジュクしているところや口・鼻の中の粘膜部分や外陰部には塗らないでください。

・塗り方:皮膚から吸収されやすい顔や首(頸部)、そしてステロイド外用薬で部分的(局所性)に副作用があらわれやすい部分などに塗ります。
・副作用:熱感、痛み、かゆみ、毛嚢炎(細菌による感染症)などが確認されていますが、多くは皮疹の改善に伴って軽減、消失します。

3)JAK阻害薬
2020年からアトピー性皮膚炎治療薬としてJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬が登場しました。細胞内の免疫を活性化するシグナル伝達に重要な役割を果たすJAKの働きを抑制することで免疫の過剰な活性化を抑えて症状を改善させるものです。ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬とは異なるメカニズムで作用するため選択肢が増えました。

(2)プロアクティブ療法について
アトピー性皮膚炎は外用薬の治療でよくなったり悪くなったりをくり返すことが特徴ですが、これは見た目によくなっても皮膚の内側には炎症が残っているため、再燃しやすいのです。そこで、十分な抗炎症治療で症状を抑えたあとにも、保湿薬によるスキンケアに加えて、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を定期的(週2~3回)に塗って症状が抑えられた状態を維持する「プロアクティブ療法」を進めます。プロアクティブ療法によって皮膚の症状がない状態を維持することが可能であり、ステロイド外用薬の使用量も少なくて済むため外用薬の副作用も心配はいりません。

リアクティブ療法について
プロアクティブ療法について

(3)生物学的製剤
スキンケアやステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの治療でもコントロールが難しい成人の重症の患者さんには、アトピー性皮膚炎の悪化因子となるサイトカインという物質をブロックすることで症状を改善させる生物学的製剤が保険適用となっています。
アトピー性皮膚炎は、フィラグリンの遺伝子変異などに伴う角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリア機能障害、免疫・アレルギー学的異常に伴うアトピー素因、瘙痒などが関与する多病因性の疾患で、生活環境やストレスなどが悪化因子となります。

免疫・アレルギー学的異常には、2型炎症(アレルギー反応に関わるTh2細胞による炎症)反応が深く関係し、Th2細胞から産生されるIL-4やIL-13などのサイトカインは、皮膚の炎症や皮膚バリア機能、かゆみに関与することが知られています。最近登場した生物学的製剤デュピルマブ(商品名デュピクセント)は、IL-4とIL-13の働きを直接抑えることで、皮膚の2型炎症(アレルギー反応に関わるTh2細胞による炎症)反応を抑制する新しいタイプの薬剤です。炎症反応を抑えることにより、痒みや皮疹を改善します。既存の治療薬と比較して効果の高い薬剤で、これまでさまざまな治療を行っても症状が安定しない患者さんや、重症度の高い患者さんはアレルギー専門医など、アレルギーの診療に精通した医師に相談してください。

(4)その他の治療法
かゆみを抑えるための抗ヒスタミン薬や、重症の場合には免疫抑制薬の内服薬(シクロスポリン)や経口ステロイド薬、紫外線療法などを併用することがあります。

スキンケア

スキンケアとは、皮膚を清潔にして、積極的に保湿することで皮膚のバリア機能を保つケアのことです。

スキンケア

(1)皮膚の洗浄
古い皮脂や汗、黄色ブドウ球菌や泥汚れなどは皮膚炎が悪化する要因になります。毎日の入浴やシャワー浴で石けんを用いて洗浄します。石けんはよく泡立てて、強くこすらず、シワなども丁寧に洗いましょう。石けんの成分が皮膚に残っていると刺激になり悪化することがあるので、しっかりとすすぐことが大切です。また、皮膚のバリア機能で必要な皮脂も流れ落ちてしまうため、洗浄後は保湿をすることが必要です。

皮膚の洗浄

(2)保湿薬
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能が低下して乾燥肌になり、炎症が生じると皮膚のバリア機能がさらに低下して乾燥肌がより進んでしまいます。ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬は炎症を低減させますが、保湿力はほとんどありません。つまり、アトピー性皮膚炎の治療では「乾燥肌を治療するための保湿薬」と「皮膚の炎症を治療するステロイド外用薬やタクロリム外用薬」の両方が同じくらい重要です。

・保湿薬の塗り方
保湿薬は入浴後すぐ(5分以内)に塗るのがよいとされています。皮膚が水分を保持している間に保湿薬を塗って水分が逃げないようにするのです。入浴後すぐに塗れずに皮膚が乾いてしまったら、化粧水などで皮膚を湿らせてから保湿薬を塗ると効果的です。保湿薬は皮疹のあるところだけでなく全身に塗りましょう。指先で塗るのではなく、手のひらに保湿薬を多めにとって、シワに沿って塗ると皮膚に広がりやすくなります。また、季節に関係なく継続してください。

・保湿薬の種類
保湿薬にはさまざまな種類・剤形があります。白色ワセリンなどの油脂は、べたべたしますが刺激がほとんどなく皮膚に油膜した状態になり皮膚からの水分の蒸発を防ぎます。尿素製剤は炎症がある部分で刺激を感じますが、あまりべたつきません。ヘパリン類似製剤はわずかに特徴的なにおいがありますが、あまりべたつかず塗りやすい特徴があります。保湿薬は、外用薬、クリーム、ローション、フォーム(泡状)、スプレーなどの剤形があり、皮膚の状態に合わせて使いましょう。

悪化因子の除去

アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能が低下しており、さまざまな刺激が悪化因子になることがあります。

(1)生活環境
悪化因子として、ダニやホコリ、花粉、ペットの毛などの環境アレルゲンのほかに、化粧品や金属などによる接触アレルギーがあります。医師と相談のうえで環境アレルゲンや接触アレルギーの原因を回避していきましょう。
さらに、唾液や汗、毛髪、衣類の摩擦などの刺激でも皮膚炎が悪化することがあります。唾液や汗は洗い流すか濡れたやわらかい布でふき取り、毛髪は短く切りそろえるか束ねて、刺激の少ない衣類を選びましょう。日焼けがアトピー性皮膚炎の悪化の原因になる場合があるので、炎天下では長時間にわたって太陽に当たらないようにしましょう。

望ましい室内環境の整備の例
・一般に、カビが増えるのを防ぐためには部屋を換気して湿気がこもらないようにしますが、花粉飛散時期は花粉を室内に入れることになるので、なるべく窓をあけずに除湿機などを活用してください。
・寝具は太陽の光を当てて干し、寝具の表面に掃除機をかけます。
・エアコンのフィルターはこまめに水洗いします。
・カーテンは薄い製品を選んでときどき洗濯します。
・家具は壁から少し離してすきまをあけて設置します(ときどき掃除機をかけます)。
・ペットは飼わないようにします。
・ソファは布製ではなく革・合成皮革製を選びます。
・観葉植物は置かないようにします(カビ対策)。
・ぬいぐるみは毛羽立った製品を避けて表面がツルツルの製品を選びます。
・床はこまめに掃除機をかけます。

望ましい室内環境の整備の例
『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023』より

(2)ストレス
アトピー性皮膚炎には心身医学的な側面が3つあります。「ストレスで皮膚炎が悪化する場合」、「強いかゆみや皮膚症状が原因で心理的に追い詰められて、よく眠れなかったり人に会いたくなくなったりする場合」、「薬への不安や医療への不信感、なかなか症状がよくならない無力感から医師の指示を守らなかったり自分の判断で治療を中断してしまったりする場合」です。これらは相互に関連し合うことが多いので、自分だけで抱え込まずに率直に医師へ相談しましょう。

(3)食べ物とアトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎に食べ物(食物アレルゲン)が関与する場合が乳児ではまれにありますが、食物アレルギーの関与が明らかでない小児・成人のアトピー性皮膚炎の治療にアレルゲン除去食は有用ではありません。小児の食べ物の除去は成長や発達の障害になることがあるので、食物アレルギーの関与を明らかにして、医師の指導を受けてください。

(4)妊娠・授乳
かつては妊娠している人へアレルゲン除去食を推奨した時代がありましたが、2012年には妊娠・授乳している人の食事制限は生後から18か月児までのアトピー性皮膚炎の発症を抑える効果がないことや、妊娠中の場合は未熟児のリスクが高まることなどが確かめられました。そのため、妊娠・授乳の際にアレルゲン除去をすることはアトピー性皮膚炎の発症予防に有用ではありません。

(5)アトピー性皮膚炎の合併症
アトピー性皮膚炎は皮膚バリア機能が低下するために皮膚の細菌やウイルスの感染症にかかりやすくなっていますので、皮膚を清潔に保ってスキンケアを心がけましょう。また、顔の皮疹が重篤な場合、目の合併症として、眼瞼皮膚炎や白内障、網膜剥離などが起こりやすいといわれています。目を叩いたり、こすったりしないように心がけましょう。

アトピー性皮膚炎について詳しくはこちら

(日本アレルギー学会Webサイトへ)
https://www.jsaweb.jp/modules/citizen_qa/index.php?content_id=4